
建築以上の家をめざして
人がいない建物。それはただの彫刻に過ぎません。絶賛し崇めることはできても、愛を感じることは稀です。テクノロジーが未曾有の進歩を遂げる中、人は天高く聳えるビル、都市、巨大建築を生み出してきました。しかしそこには人が充実した時を過ごせる空間はあまりなく、ある種、輝きは眩いのだけど一歩離れると簡単に記憶から消し去られてしまう宝石のような部分があります。
強い建築を創るためには、空間自体が人と人とをつなぐ血管の役目を果たすようでなければなりません。デジタル化が進む世界にあっては、より深く、よりシームレスな絆を追求するのは建築家にとってもかなりの努力を必要とします。コミュニティを分断する壁を破るというお題目も後回しになってしまいがち。しかし建築とは本来、人生が起こる舞台であり、コミュニティがつながる舞台なのではないでしょうか。
吉野杉の家は吉野コミュニティによる、吉野コミュニティのための家です。建築チームはホストコミュニティとともに自治体や近隣の住民の方々、また多くの関係者と定期的なミーティングを何度も行い、コミュニティ全体の賛同のもとに実現しました。
建築家の長谷川豪さんは家全体の主な素材に、三大人工美林として名高い吉野の山から伐り出した杉の木を選びました。それを、土地の匠の大工さんと職人さんが丹念に組み上げました。この家には吉野の人々との絆、脈々と受け継がれる伝統との絆を促す工夫が隅々まで行き届いています。
この工夫はデザインにも丁寧に施され、特徴ある三角屋根は、奈良の民家の形式でもある二段勾配の屋根「大和棟」を模しています。また、2階にある2種類の広々としたゲストスペースは、ゲストが安らかにくつろげるように、落ち着きと清潔さを感じる吉野の白いヒノキがつかわれています。片方のお部屋は東向き(日の出の部屋)。もう片方が西向きです(日の入りの部屋)。
“日本ではよく地域のために建物を建てるということがされますが、でもいざ出来上がってみると「これは何に使ったらいいんだろう?」と、地域の人が困ってしまうことがあります。でも、このプロジェクトは一味違い、地元の人も最初からアイディアがありました。そして、Airbnbとのコラボレーションからはじまったプロジェクトには、地域の自治体も加わり、かつてみないコミュニティづくりのモデルが完成しました。”
杉以外に28種類もの吉野の山から伐り出した木が使用されています。また、入り口に日本家屋特有の「縁側」があり、これには外でも内でもない、曖昧な空間のなかで、吉野のコミュニティとゲスト間で自然な交流が育まれるような工夫が施されています。1階は完全に地域コミュニティのスペースとして解放され、2階はゲストのプライベートスペースとして、最大7名まで宿泊することができます。
2階のゲストスペース以外は全てがゲストと地域の人々とシェアされる空間としてデザインされました。吉野に暮らす人々が地元の文化を旅行で訪れるゲストと共有し、より深いところでつながりをもてる場所になるよう、そんな願いが込められています。
“お互いを助け合うコミュニティを作り上げる道で必要だったのが、「建築」という形であったということなのです。”
